〜一筋の光・A〜
やっと治まった体の震え。気付けばゼルフィルドと名乗った機械兵はいなくなっていた。
なぜこんなことになってしまったのだろうか。
一体何を間違えてしまったのだろうか。
そんな終わりのない問いを繰り返してた。
嫌というほど静かな空間は外の音を漏らさず伝える。
そして一つの足音が近づいてくるのがわかった。
「起きているか?」
その声にびくりと体がはずむ。
返事をしようにもどうすればいいかわからず、とりあえずかけられたままだったシーツを胸元まで手繰り寄せた。
そうこうしている間に入り口の布が捲られる。
入ってきたのは俯きかげんの金髪の人、そして……目が合った。
その瞬間相手はぎょっとして一歩後ろに下がった。
「おっ起きているなら返事をしてくれ」
私は相手をじっと見つつ呟く。
「なんて返事をすればいいかわからなかったので」
―綺麗な人
性別はどちらかはわからないけど、この人ならなんとか会話できそうだ。
とりあえず安どのため息が漏れる。
それを見計らったかどうかはわからないけど目の前の人が口を開いた。
「ゼルフィルドから聞いた、君の名前は……でいいのかい?」
「はい、と申します」
「僕の名前はイオスだ」
―僕……ということは
「男の方ですか……あっ」
思わず口に出してしまいはっとする。
案の定彼は眉間に皺をよせていた。
「ご、ごめんなさい」
―怒られる
そう思った私はぎゅっと身体を縮こませた。
「そんなに怯えないでくれないか… 不本意だけど慣れているからね。怒ったりはしないよ」
その言葉に私はゆっくりと身体の力を抜いていく。
彼を見るとその口元にはうっすらと笑みがみれた。
そして机の側にあった椅子を引っ張り私の前へと移動させ、そこに座った。
「さて、突然だが本題にうつりたい」
空気が一変したのを肌で感じ、私は静かに頷いた。
「まずここは君のいた世界ではない。それは聞いたね?」
「はい」
「その……君にはショックかもしれないのだが」
彼は言いにくそうに口をつぐんだ。
「かまいません、それが受け止めなければならない事ならば」
どんな現実だろうと今の私にはどうでもいい事だ。
私に言葉に意を決したのだろう。彼は再び口を開く。
「単刀直入言おう。、君は恐らく元の世界には帰れない」
それは願ってもいない結論だった。
そしてあの光景が蘇る。
あれからどれくらい時間が経っているかは分からないが、私にとってはつい先ほどの事である。
どれほど拒絶しようとこの現実だけはありのままに私を壊していく。
―どうして私は……
「……」
我に返ると心配そうにこちらを見る彼がいた。
「すまない……やはりもう少し後から言えばよかった」
「いいんです……私の居場所はなくなってしまったので」
「しかし!」
「いいんです!!」
静寂の中に響いたその声の余韻は中々消えなかった。
「それならいいんだ」
彼はそれ以上何も言ってはこなかった。
それは今の私にはとてもありがたかった。
「じゃあもう一つ、君はこれからどうしたい?」
「えっ?」
―どうしたい?
今一番聞きたくなかった言葉。
今一番考えたくなかった言葉。
「わか…り、ません」
それが精一杯だった。
「わかった。無理に答えを急ぐ必要はない」
―答え……?
「決まるまでここに居ればいい、ルヴァイド様からも許可はいただいている」
―決まるまで?何を言っているの?
「答えなんてでるわけない」
これ以上私に何をしろというのだ。
答えを決める。それは私に生きろといっていることじゃないか。
―コタエナンテイラナイ
「どうして…どうして私を助けたのですか?」
彼が息を呑むのがわかった。
「なんでそれを……」
「どうして…なんで…どうして! なんで!!」
なんで私はこんなに辛い思いをしなければいけないの?
―ああ…そうか……
そう、わかってしまった。今までそれを無意識に考えなかっただけ。
「あの時死んでいたら…私はこんな思いしなくてよかった! 全部っ全部夢で終わらせられた!!」
―タスケラレサエシナケレバ
ただ衝動的に立ち上がり胸倉に掴みかかる。
「貴方が! 貴方が余計なことをするから!! どうして!? 答えて!」
そしてありったけの力で叫んだ。
「何の為に助けた!!!」
彼は抵抗することなく静かに話始めた。
「どうしてか…君が突然僕の目の前に現れて、その時はただ助けなければとしか思わなかった…」
「私はそんなこと望んでない! 私にこれ以上生きろと言うの!?」
―お願い否定して
「その通りだ」
「なんで? 私に生きている資格なんてもう……」
「生きるのに資格なんていらないんだ」
対照的な彼の態度に私の怒りはさらに高まる。
―貴方に一体何がわかる…
「わかりきった様な事言わないで! そんなのただの偽善! 自己満足にすぎないのよ!」
―そうよ、どんなに一緒に居たって結局私は独り。
「確かにそうかもしれない……だが」
突然強い力で彼に掴みかかっていた手を外され、ギリギリまで引き寄せられる。
「いつまで悲劇の中心にいるつもりだ」
その紫の瞳に映るは憤怒の色。
―それでいい。さあ早く私を否定しろ。
「逃げる為の理由に気安く死を口にするな」
その言葉にびくりと身体が反応した。
「まだ話していなかったが僕はいや、僕達は軍人だ」
「それが何だって言うのですか」
必死に動揺を押し殺し、なおも彼を睨みつける。
もちろん、それは相手だって変わらない。
「先日の命令はある1人を除いたこの村人の抹殺……老若男女全てだ!」
彼の瞳がうっすらと揺らぐ。
「どんなに泣き叫び命乞いされても全て殺した!」
「なんで…そこまでするの?」
―そんなに辛そうな顔をするのにどうしてなの?
「それが騎士だからだ」
それはあまりにも強い意志。私の知らない感情。
「この手で殺めた者を全て受け止めて生き抜く。そこに逃げ道など何一つない」
そこでやっと私を掴んでいた手の力が抜けていく。
「でも…君の言うように僕はただ自分罪から逃げたいだけの偽善なのかもしれない」
そして少しずつ腕は降りていく。
「君がどんな思いをして今ここにいるのかは分からない。だけど君を助けたいと思ったことに偽りはない」
「だから!」
―助けてくれなど
しかしそれを言う前に彼が続ける。
「けれど…あの時の僕はきっと……、君に救われたんだ」
「今なんて……」
「もう一度言うよ…君に救われた」
―私が救った?
「本当に?だって…だって私は……」
「何も言わなくていい…今の君に生きる意味が必要ならば僕を利用してくれてかまわない」
「でも…でも…」
―だれかを利用するなんて……
「お互い様だ。気にする必要なんてどこにもない」
「どうして……そんなこと言うの……」
視界が歪んでいく。
「君に生きる意味が必要なように僕にも……」
―お願いそれ以上言わないで
「君が必要だ」
その瞬間私をせき止めていたものが全て崩れた。
ぼろぼろと零れ落ちる涙。
「?」
―なんで優しくするの?
例えそれがその場しのぎの言葉だとしてもその意味はあまりにも大きかった。
その証拠に彼はこんなにも強いのだ。
私なんか必要ない。私とは違う。その命を全て背負って生きている。
そう、私は逃げていただけ。
分かっていた、でも認めたくなった。
怖かったから…押しつぶされてしまいそうな気がしたから。
結局私は分かっている気で何一つ分かっていなかったのだ。
それを彼が……イオスが教えてくれた。
歪んだ世界の向うで彼が心配そうにしているのがわかる
「、大丈夫かい?」
『、大丈夫?』
イオスとが重なって見えた。
2人とも私に大切な事を教えてくれた人。
何もかも限界だった。
「うっ…うわぁああぁあぁあああ」
何か言わないと…イオスは何も悪くないんだと。
それでも涙が止まらなかった。
そしてそれは刹那の出来事だった。
握ったままだった腕が再び引き寄せられて、気付けば彼の腕の中に納まっていた。
少し怖かった…でも嫌ではなかった。
なぜならすごく…すごく温かかったから……
イオスは何も言わず私の頭を撫でてくれた。
私は彼の胸を借りて泣きじゃくる事しか出来なかった。
そしてそのぬくもりの中で思うことはただ一つ。
―お願いします…もう一度……もう一度だけ私に勇気を下さい。
優しさを求め彷徨う翼
舞い降りた先は果たして安息の地だったか
今は誰にもわからない
ただそこには確かに
一筋の光が差して見えた
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