魔女と魔法少女






あれから俺はのもとへ通うことが日課の一部となった。

もちろん検査の日や来客がある日は別。あとは天気が悪い日も逢いに行けない。

あの日俺が時間を聞いたせいか、次にに逢いに行ったら部屋に時計があった。

が言うには結界内は変幻自在らしい。


他に変化があったのがエンプティーだ。

に逢いに行くたびに外見がどんどん人間らしくなっている。

髪も毛糸だったのがある日本物みたいで、気になって触らせてもらったらサラサラだった。

ちなみにその次は髪型がポニーテールになっていた。

服も端切れの寄せ集めみたいなのが今では立海の制服だ。

曰く、情報収集の結果らしい。

でも目と右手だけは人形のままだった。

自身はというと、口調が堅苦しいものから柔らかい形へと変化した。

まあこれは俺がお願いしたのもある。

だってたまに真田と話しているのかと思ったらからさ。

といろいろ話すようになったから、最近顔色が良くなった。と言われることが多くなった。

これなら退院も近いかもしれない。そんなことを思っていた矢先だった。

手術の提案をされたのは……





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「手術……ですか?」

「最近の幸村君はとても調子が良さそうだからね。今ならこの手術も耐えきれると思うんだ」

「それでも手術を勧めるということは、手術をしなきゃ退院はないという事ですか?」


先生は言いづらそうにしたが、一息おいて「そうだ」と答えた。


「でも手術をすれば、俺はまたテニスができるんですよね?」

「手術自体とても難しいものだから成功率は50〜60%と思ってほしい。もちろん最大限手を尽くす」

「幸村君のご両親には先日伝えた。君の意志を尊重してくれるらしい」

「少し考えさせてください」


そう言って俺は診察室から出た。

病室に戻って真っ先にテニスボールを握りしめ、すぐにものとへ向かった。

こんな時でも走ることのできない自分の身体が憎らしかった。





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!!」


結界に入りドアを開けた俺は叫んだ。

いつものようにお茶を準備していたがゆっくりとこちらへ来た。


「どうしたの?幸村精市。どうしてそんな顔をしているの?」


俺の顔を覗きこむその瞳はあいかわらず人形のものだったけど、本当に心配してくれるのが声でわかった。

そのことが嬉しくて、だからどう答えればいいか余計に分からなくなって、でも話は聞いてほしくて、でも情けないところなんて見せたくなくて、でも側にいてほしい。

どうすることもできないもどかしさに視界がにじんでくる。

そこにふわりとした感触が頬を包んだ。


「泣かないで。私はここにいる。幸村精市あなたは独りじゃない」

……」


俺はそのままに抱きついて泣いた。

力の入らない腕も今だけは気にならなかった。

何度も何度も名前を呼んで、その度にはそっと頭をなでてくれる。

人間じゃなくたっては温かかった。心はもっと温かかった。





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しばらく時がすぎて、涙も収まった。


「落ち着いた?」

「うん」

「話せる?」

「俺手術しないかって言われたんだ。俺の身体手術しないとダメみたいでさ、テニスも手術しない限り絶対できなくて、でも失敗したら俺死ぬ……みたいなんだ」


大丈夫、心配ない。皆がそう口にする。

だから俺も同じことを皆に言う。

本当は怖くてたまらない。

呼吸が苦しくなるとその度にこのまま二度と目が覚めないんじゃないかって思う。

怖くて怖くて怖くて怖くて。

でも泣き叫んだところでどうすることもできない。


「俺っどうしたらいいんだろう……」


期待に応えたい。でも怖い。死にたくない。

そんなことがぐるぐると頭をかけめぐる。


「ねえ幸村精市。あなたの願いって何?」


突然のことに顔を上げると、の無機質な瞳が俺を見ていた。

その視線にぞくりと鳥肌がたった。

を怖いと思ったのは初めてあった日以来だった。


「俺の願い……?」


俺の願い……エーダはどうしてそんなことを聞くのだろう。

その意図が読めず、俺はただじっと彼女を見ることしかできない。


「待って、今すぐ離れて!」


声を荒げるに驚き俺はすぐさま彼女から離れた。


突然どうしたの」

「お客様が来たみたいよ」


が言うと同時に爆発音が響き、の身体が吹き飛んだ


!!」

「動かないで!」


慌てて駆け寄ろうとするのを別の声が止めた。

振り返ると変わった格好をした女の子が巨大な何かを構えてこっちへ飛んできて俺の前に立った。


「君は……」

「説明はあと!こんな中心部まで一般人が入りこんでいるなんて」

「ねえ君」

「だまって言ってるでしょ!」


彼女は背を向けたまま振り向こうとしなかった。

ふと奥のいつも通りの場所にいたが動くのが粉塵の影に見えたと思ったら強烈な風が吹く。


「おでましってやつかしら」


顔を庇いながら少女がつぶやいた。

そこには自身が浮かんでいた。


「そこにいてね!」


そう言うと彼女は大きなブーメランを掲げてへと飛びこんで行く。


!」

「アレ?君何で魔女の名前を知っているんだい?」


突然の声に足元をみるとそこには白い生き物がいた。


「何でって彼女から聞いたんだよ」

「本当かい?それはまた興味深いね」


その落ち着きようが何だかわからないけれどやけに俺をイラつかせた。

話している間にまた大きな爆音があがった。

その音に宙を見ると女の子は血を流していて、も羽が一枚なくなっていた。

が残りの羽をさらに大きく広げると目を開けてられないくらいのすさまじい風が吹き荒れた。

そして目を開けるとそこにと結界は消え、俺と白い生き物と女の子だけが残っていた。

するといつの間にか制服になっていた彼女がこちらへと向かってきた。


「危ないところだった。君この病院の患者でしょ?見られてしまったから言うけど、私は魔法少女なの。さっきのは魔女っていってね、解りやすく言うと呪いをふりまく人類の敵ってやつ」


俺が尋ねるより早く話し始めた彼女に苛立ちがつのる。


「で、何が言いたいんだい」


俺がそう言うと彼女は驚いた顔をした。


「何がって、あなた殺されかけたのよ?感謝される覚えはあっても、睨まれる覚えはないんだけど」

「自分だけのものさしで話し進めないでくれないかな。君に助けてなんて言った覚えはないよ」

「あなた本気で言ってるの!?いい魔女っていうのはねっ」

「そんな事俺はどうでもいいよ。君たちは何?魔法少女って何なの」

「魔法少女っていうのはね、一言で言うと魔女を退治する存在さ」


一触即発の俺たちの間に入ってきたのが白い生き物だった。


「といことはを殺しにきたの?」

「そのってさっきの魔女のこと?だとしたらそうよ。魔女はそこに存在するだけで周囲の人間に呪いを振りかざす。呪われた人間は取り返しのつかないことになるのよ!?」

はそんな事しないって言ってるだろう!」


厳しい目で非難する彼女に俺も声を荒げる。


「呆れた!いい!魔女はね人を呪うのが本能なのよ!とにかく私はあの魔女を倒す。精々君は殺されないように気をつけなさい!」


そう言って彼女と白い生き物は俺の前から去って行った。

1人取り残された俺は立ち尽くすしかなかった。





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あれから数日。どころかあの少女たちも一切音沙汰なかった。

いつもの場所にも行ってみたがはいなかった。

そのことがどうしても気になり、頭の中ではの事ばかり考えていた。

手術は受けることにした。

予定日は皮肉にも関東大会決勝戦の日だった。

手術の成功率やリスクについてアイツらに詳しくは伝えていない。

無駄に心配させて練習に支障がでたら元も子もない。

これ以上アイツらに苦労をかけるわけにはいけないかった。

そして手術5日前の夜を迎えいつものように眠りについたが、寝苦しさに目を覚ました。

でも何か妙だった。まるでの結界の中にいるような……そんな雰囲気を部屋から感じる。


?いるの?」


すると闇の中からずいぶんと小さくなったが姿を現した。


!よかった無事だったんだね」


身を起こしベッドから降りようとした時だ。


「動くな」


その鋭さに俺の動きは止まった。


「幸村精市久しいな。今日はお前に用があって来た」


の話し方は出会った頃と同じように戻っていた。


「用っていったい何?」

「幸村精市、お前に譲れぬ願いはあるか?」

「ゆずれぬ願い?」


突然のことに俺は答えることができなかった。


「よく考えておけ、私自身限界が近い。5日後答えを聞きにくる」


の羽から光の粉がふり、俺の右手に羽の様な模様が浮かび上がる。


「それは我が印。忘れるな」


ハッと辺りを見渡すと既に夜が明け空が明るくなりはじめていた。

パジャマが汗で肌に纏わりついて気持ち悪い。


「なんだ夢か……」


ゆっくりと息を吐き額にあてた手の甲を見ると夢でみたあの印が浮かんでいた。


「夢じゃない……?」


5日後……耳元が囁いた気がした―――――





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